2017年02月11日

第二部 黒の王 -11-

 ようやく、なにを命じられているのか聞き取れるようになった。とてもではないけれど、普段なら叱り飛ばしているようなこと。
「キミの、中から抜いて、自分で広げて」
 オブシディアンの首に抱きついて、身体を支えながら、尻を持ち上げて性器を引き抜いた。自分の意志とは別の焦燥に駆られて、まだ薬でぬるついている後ろに、人差し指を埋めた。
「なに……なんで」
「傷つけたくないけど、私は、手が使えない」
 オブシディアンは縛られた腕を、ちらりと見せた。自業自得とはいえ、自分で尻をほぐすはめになるなんて。
「声、解いて……こんなこと、したくありません……っ」
「もっと広げて」
 指一本くらいでは、男の性器のようなきつさは無い。声に操られるままに、指を増やして中をほぐした。ぐちゃぐちゃした音が響いて、オブシディアンに聞かれてしまう。
 恥ずかしさで、顔が燃えるように熱くなった。顔を見られたくなくて、彼の肩に顔を押し付けるようにして自分でいじり続けていたら、耳元でささやかれた。
「指、奥まで入れたら気持ちがいい」
 声に逆らえなくて、指の根本まで押し込んだ。かきまわすと、ぐりっと小さな突起をひっかいた。腹の中がとろけそうになり、全身が震えた。
「……や、ああっ」
 指を動かすのを止められなくなった。助けを求めるようにオブシディアンを見上げた。オブシディアンは私の痴態から目をそらした。
「シャー、手首の帯、取って」
「……今?」
 取ってやるには、自分の中から指を引き抜かなければならない。快感に翻弄されていた私は、弱々しく首を横に振った。
「あとでしてあげます。もう少し、待ってなさい……」
 見られているのに我慢ができない。後ろをほぐしながら、反対の手で性器も慰めた。
 オブシディアンはごくりと唾を飲み込んだ。それから、大事なものにするように私の肩にくちづけた。服越しにその熱が伝わってくる。
「シャー、早く取って」
「……ううっ」
 私は降参して、指を引き抜いた。脚がしびれて、力が入らない。寝台を這って、オブシディアンの背後にまわった。力の入らない身体で手首の帯をほどいた。
 手が自由になったのだから、彼が続きをしてくれるのかと期待したが、オブシディアンは自分の手を見て、落胆した表情をした。
 寝転んでいた私に、オブシディアンは覆いかぶさった。
「慣らすのを、もう一度」
 男に見下ろされながら、私はまた自分で尻をほぐさなければならなくなった。せめてもの抵抗に、横向きになって背を丸めて、なるべく見られないように縮こまった。
 顔の横に置かれた彼の手は大きく、皮ふはごわついて硬そうだった。もし、この指を入れられたらほぐすどころではなく、傷だらけになるのだろうと想像がつく。
「さわらないのは、私を傷つけたくないからですよね?」
 聞いておかないと不安だった。もう、嫌がられていると勘違いして、悲しくなりたくない。
「これからは、きちんと、指に薬を塗るようにする」
「嘘です。そんなの信じられません……から、薬は私が塗ります。逃げたら怒ります」
 オブシディアンはものすごくうれしそうに、「ああ。私はキミに、さわりたい」と答えた。
 内壁がぎゅっと締まった。指を動かせないくらいきつい締め付けで、どうして急にそんなふうになったのか自分でもわからなかった。
「いや、やだ」
 性器が張り詰めて痛い。急激な射精感に襲われ、身体の変化に気持ちが追い付けなくて、くちびるを嚙みしめた。
 命令通りに後ろをほぐさなければという思いと、射精したい気持ちが押しよせてきて、どちらにも集中できなくなる。
 てのひらで目を塞がれた。ふれるかふれないかの接触だったが、そばにオブシディアンがいるのが感じられて安心した。
「指は、抜いていい」
 さっきよりも、声が深くまでしみ込んでくる。指を引き抜いた。尻の奥の感覚が弱まると、私は身体をひくつかせながら射精した。
 こんな姿を誰にも見られたことがない。途方もない情けなさと、オブシディアンに見られている興奮で、じわっと涙が浮かんできた。まぶたの上から手が離れた。
「濡れてる……また泣いてる、のか?」
 私は自分から仰向けになり、胸につくくらいにひざを曲げた。入れてくださいとか抱いてくださいとか、女なら言うのだろうかと考えたが、あいにく経験が無いので適切な言葉が浮かばない。
 見上げたオブシディアンの顔は、不安そうだった。たぶん、私よりも怖がっているに違いなかった。
「私が欲しくありませんか?」
「……欲しい」
 いつか、名前をあげた時のようだった。オブシディアンの声には神の力は感じられず、老人のようにしわがれて、かすれた声音には熱がこめられていた。
「さしあげます。かわりに貴方をもらいます。これからは私の所有物です」
 手を伸ばしてオブシディアンを引き寄せた。
「キスしてください、黒の姫」
「……キス?」
 無垢で無知な男の頭を抱え込んで、くちづけた。
 私だってキスのやり方なんて知らない。くちびるの無いくちや頬にやみくもにキスし続けると、オブシディアンが「ひっ」と嫌そうな声を上げる。色気が無くて、私の心はささやかに傷ついた。
 どうしよう、オブシディアンが好きだ。
 好きだと言って、ちゃんと伝わるかも怪しい男を好きだった。
「私は貴方になりたかった。貴方のような圧倒的な力が欲しかった。地下牢で会った時から、貴方を自分のものにしたかったんです」
 二の腕をつかまれ、寝台に押さえつけられた。
 ほぐしたはずなのに、性器を押し込まれるのは痛かった。たぶんこれは、入れていいところではないのだろう。そんなところで繋がっているのに、心臓がうるさく鳴って、早く続きをしてほしいとしか考えられない。
「……痛そうな、顔」
 オブシディアンは私の顔に手を伸ばしたが、結局はさわらずに、顔の横に手を置いた。
 傷つけるかもしれないと気遣いをするくらいなら、いっそ怪我させてくれたほうが気が楽だ。
 頭を動かして、彼の手にすり寄った。硬い手の甲のせいで、頬がちくりと痛んだが、かまわずに舌を出した。
 爪の無い指をくちに含んで、舐めまわした。挑発するように、横目でちらりとオブシディアンを見た。
「中に入っているのが硬くなりましたよ。貴方、性器だけは雄弁ですよね」
 腰をつかまれた。遠慮なく奥まで貫かれる。
 とっさに上がりそうになった悲鳴を押し殺した。根本まで埋め込まれて、確かめるように奥を数度突かれると、ずるりと引き抜かれた。
「……っ、ひあっ」
 内壁まで引っぱられてしまいそうな勢いだ。全部、抜かれたのかと思ったけれど、オブシディアンは私の体内に先端だけを残して、揺さぶった。閉じようとしていたところを、無理にこじ開けられる。
 まだ薬は残っていたけれど、滑りがいいくらいでは、痛みは誤魔化せなかった。
 くちを押さえる。
 中を擦られる痛みに耐えると、急に動きが止まった。今度はゆっくりと、奥まで繋がった。あまりにゆっくりだったから、徐々に中を開かれていくのがわかって脚が震えた。
 オブシディアンはそのまま、私の顔をのぞきこんだ。
「は……っ、はあ……っ」
 荒い息を吐いて、余裕が無さそうだった。獣のような男の頬を、そっと撫でてやった。
「気持ちいいですか?」
「シャーが……」
「大丈夫です。好きにしていいですよ」
 よしよしと顔を撫でまわすと、オブシディアンはくちを大きくゆがめて、泣きそうな顔をした。
「キミが、欲しい」
 声が揺れているように感じた。遅れて、何を言われたのかが聞こえた。
「同じくらい、気持ちよくなって」
 何度目かでも、慣れなかった。
 私は快楽に叩き落された。
 繋がっているところが痙攣して、男の性器を締め付ける。オブシディアンがうめいた。私の衝撃は、彼以上だった。引き抜かれる刺激で汗が吹き出た。
「うあっ……あぁん」
 くちを押さえても声が殺せなかった。
 中を擦られるたびに、目の前が白く光った。オブシディアンは深くまで入ってきてから、動きを止めた。みっしりした圧迫感さえ、焦らされているように感じられる。
「ああ……これ、へん」
 自分から腰を揺らしてしまいそうになった。ひどい。なにが同じくらいだ。こんなの絶対に、オブシディアンよりも私の方が気持ちがいいに決まっている。
 オブシディアンが私の性器を、指先でなぞった。
 ざらりとした硬い指で、先端をやさしくいじられる。それだけの感触で、下腹部に熱が集まってくる。さっき出したばかりなのに、すぐに勃ち上がった。いくまでさわっていてほしかったのに、オブシディアンは手を離してしまった。
 腰の下に手を差し込まれた。少し持ち上げられると、深く押し込まれていた性器の角度が変わって、さらに奥まで入ってきた。
「ひいっ、ひ……」
 恐怖が込み上げてきて、オブシディアンの胸を押し返した。
「力、抜いて」
 言葉のとおりに、私の手足から力が抜けた。人形のようにくたりとしてしまう。身体のこわばりが解けたせいか、さっきよりも快感が強くなっていた。
 ゆるやかに中をこすられる。両手で腰骨をもまれると、高い声が出た。そんなところが気持ちがいいなんて知らなかった。繋がっているところがひくついて、硬い性器にまとわりつく。
 オブシディアンは切羽詰まった声で、「もう、動けそう」と言った。
「待ちなさ……っ、はあ……っ、あん……いや」
 力任せに揺さぶられても、少しも痛くなかった。弱々しい声で鳴くしかできない。身体を動かせたらオブシディアンに抱きつけるのに。
「声、解きなさい」
「……抜きたくない」
「動けないのは、怖いです」
 ふっと、身体に力が戻った。ろくに動けそうにないくらいぐったりしていた。抱きつきたくて、もどかしい思いで見つめていると、オブシディアンの動きが速くなった。
「や……ぁあっ、もっと弱く……」
 頭の中で自分の嬌声が響いて、さらに気分が煽られた。
 奥をえぐられて、ぞくぞくした快感が腰から背中を駆け上がった。うなじまで痺れたような気がして、興奮を抑えられずに声を上げた。
「いや、や――っ」
「シャー、大丈夫。大丈夫だ」
 胸を撫でてなだめられる。気持ちは落ち着いてきたが、まだ快感が強くて涙が止まらなかった。
 オブシディアンは奥ばかり責めるのを止めてくれた。浅いところでゆるく動かされるのは、たまらなく気持ちが良かった。
「いきたい、も……出します」
 耐えきれずに自分で性器をさわろうとすると、腕をつかまれた。オブシディアンは大きな獣が飛びかかるように、体重をかけてのしかかってきた。
 しきりに私の首筋を舐める。興奮しているのが、吐息からも伝わってくる。
「貴方もいきそうですか?」
 猫背の背中に手をまわして、服の下の背骨の感触をたしかめながらやさしく撫でた。がつがつと腰を押し付けられて、すぐに私も余裕が無くなった。
「ふ……あっ、ああっ」
 しがみつくと、オブシディアンの両腕に抱きしめられた。息が止まるほど強く抱かれて、胸が甘くしびれた。それは身体の快感よりも強烈で、無意識のうちに射精した。
 出したものは、オブシディアンの服に飛び散った。
「はあ……っ、貴方の服にも……ごめんなさい」
「シャー、かわいい。気持ちいい」
 感極まったようにそう言い、すがりついてくる男が愛しかった。頭を抱きしめて、削がれた耳のあとを舐めてやると、オブシディアンもすぐに達した。
 引き抜かれると、中から精液があふれた。尻をつたって背中にまで垂れるほどで、そのどろりとした感触にまた身を震わせた。離れてしまうのが惜しかった。
 興奮が冷めないようすのオブシディアンを見上げた。
「キスしませんか?」
 オブシディアンは私を見下ろして、さっきまで乱暴にしたくせに、おずおずと遠慮がちにくちをくっつけてきた。
「ん……っ」
 オブシディアンにつかまれた頬がちくりとした。指でひっかかれたようで、肌に擦り傷が出来ていた。大した傷じゃないのに、オブシディアンは手をひっこめた。
 さらにフードを被りなおした。布で口元を隠すと、布越しにキスを続けようとした。私はフードに手をかけて、顔が見えるように布を剥いだ。
 オブシディアンにくちづける。
「布越しにキスされたくありません。今後はしないように気をつけてください」
「今後……も?」
「黒の姫にすると言ったでしょう。羽のしるしは四十日で消えてしまうんです。だから消えないように、これから何度でも私とするんですよ。みだらな行為、悪くなかったでしょう?」
 楽しい気持ちで言い聞かせながら、オブシディアンの襟をつかんで広げた。
「……え」
 彼の鎖骨に、羽のティンクチャーはなかった。
 こんなに深く抱き合っても、黒い羽をしるせなかった。王に選ばれた者なら、誰にでも備わる能力のはずなのに。
「私の力が弱くて、しるしをつけられなかった……?」
 信じられない思いでつぶやくと、オブシディアンは鎖骨をひっかいた。
「さっき、ここが熱かった。キミの、せいじゃない。私の肌は、紫の姫とは違う」
「それじゃあ……」
 爛れて変色した肌にふれた。
「油をかけられた。何度も。肌のもっと奥に、しるしが出ていても、キミには見えない」
 オブシディアンの言う通りなら、羽のしるしは奥深くに浮き出ているのかもしれない。
 だが、誰の目にもわかるようものがなければ黒の姫とは呼べない。しるしがなかったら、レイヴンからオブシディアンを守れない。
「もう、これしか方法が無いのに……しるしがなければ、私のものだと言えないのに……!」
 鎖骨の真ん中を叩いた。てのひらを強く押し付ける。もっと深くに羽が潜んでいるのなら、姿をあらわして欲しかった。あまりの無力感と虚しさに、涙がにじんだ。
「……すみません」
 手を離そうとすると、オブシディアンが私の手首をつかんだ。私がしたように、自分の肌に強く押し付けた。
「王印を」
 ぶわりと鳥肌が立って、悪寒がした。
「やめ……!」 
 意志に反して、私のてのひらが熱くなった。オブシディアンはかすかに顔をゆがめたが、それが終わるまでは動かなかった。
 焦げ臭いにおいがした。彼はようやく私の手首を離した。見るのが怖かった。恐る恐る手を退けて、あとに残されたものを、呆然と見つめた。
 彼の鎖骨には、絡み合う四頭の馬がしるされていた。
 王印はインクで書かれたようなつやのある黒色で、書面に押す時よりも大きく、ちょうど私のてのひら程の大きさだ。
「キミのしるしだ」
 オブシディアンは黒い刻印を見下ろして、満足そうに言った。
「羽じゃなくても、しるしがあれば、私はキミのものだ」
posted by eniwa at 00:00| トリロジー